たから第六天(境外堂)
 
「たから第六天」の由来
「たから第六天」は、中野開拓者の鈴木九郎が成願寺を建立したとき、土地の恵みと人々の幸福を願って奉安しました。以来600年近く周辺住民の人々に親しまれてきましたが、山手通りの拡幅に伴って位置をずらし、平成8年12月9日、落慶いたしました。「たから第六天」は成願寺の山号「多宝山」にちなんでおります。

悪魔の誘惑
第六天は欲望の世界に生きる魔王です。しかし、大きな力をもつ仏法の守護尊として、人々に信仰されてきました。
お釈迦さまがお悟りを開いたとき、その直前に「降魔(悪魔を降伏させる)」とよばれる出来事があっ たと伝えられています。
お釈迦さまの6年間の苦行の後でした。断食をはじめ、厳しい苦行で衰えた身体を尼連禅河という川で清め、静かに樹下に坐していたときのことです。 そこへ「マーラ」と呼ばれる悪魔が近づき、お釈迦さまに誘惑を仕掛けました。おいしそうな食べ物をもりだくさんに出現させたり、美しい女性をなまめかしく見せたりして、心を乱そうとしたのです。金銀や宝石も次々と現わしましたが、効き目はありません。 誘惑が通じないと見た悪魔は、今度は肉食獣や盗賊の群れ、攻めよせる軍勢を出現させて恐怖を与えようとしました。しかし、お釈迦さまがたじろぐことはありません。悪魔はついに降伏し、仏法を守護する神になったということです。この悪魔マーラこそが第六天です。

大魔王の恵み
仏教で「天」というのは、神々のことです。また、神々の世界も「天」といいます。生きとし生ける ものが輪廻転生するという六つの世界(六道)のいちばん上に「天」があります。
仏教では、神々も迷いと欲望の世界に生きる者です。その天界に「六欲天」という六つの段階があり ます。最上位が「第六天」で、下天に化現する楽を自在に受けることができるということから「他化自在天」とも呼ばれます。
この第六天は仏法に帰依したといえども、なお欲望にとらわれた世界に生きる天魔です。他化自在天の自在天はバラモン教(ヒンドゥー教)の破壊と恵みの最高神シヴァの別名でもあり、時には暴風雨な どの激しい怒りを現して、人々を苦しめるのでした。仏教でも大魔王として恐れられます。
しかし、暴風雨が恵みの雨ともなるように、第六天は大きな恵みをもたらす強力な神です。そのため、日本でも室町時代頃から土地守護神として祀られてきました。

観音菩薩の化身
ところで、自在天については観音経に「応以大自在天身。得度者。即現大自在天身。而為説法」とあります。「大自在天の身をもって救うことができる者には、すなわち大自在天の身を現し、その人のために法を説いて救う」という意味で、観音菩薩の三十三身の一つとして大自在天が説かれています。
恐ろしい天魔である第六天のほうが、仏の世界に導くのに適した場合があるのです。
また、大般若経六百巻に含まれる理趣経という経典では、欲望のうずまく他化自在天の天空の城で欲 望は本来の清浄な力に転じられると説かれています。悩みや苦しみのもとである欲望を浄化して人々を幸いに導いてくれるのが、他化自在天であるというわけです。
自在天はまた、十二天のうち東北の守護神・伊舎那天のことです。仏教のふるさとインドから見れば、日本はまさに東北方にあたり、自在天に守護されて今日があるともいえるでしょう。
 

 
       
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