六地蔵菩薩
 

墓地の入口に立つ地蔵菩薩
山門を入って正面に6体の地蔵菩薩に出会います。6体の地蔵尊は、あわせて「六地蔵」といいます。六地蔵は、ほかのお寺でも、墓地の入口付近にあるものです。というのは、命あるものは死後に六道という六つの世界のどこかに生まれると伝えられており、それぞれの世界で地蔵菩薩は人々を守護するとされるからです。

先祖供養と地蔵菩薩
もし、死んでも生まれ変われるのであれば、うれしいことかもしれません。世界の諸民族の伝承は、すべての死後には死後の世界があると伝えていますし、まったく何もなくなってしまうことはないと信じられてきました。それを物理的な意味で証明することはできなくても、あるいは理屈では死後の世界があるとは思えなくても、心のどこかでは死後の世界があるし、祖先の霊もあると感じられるのが人の心というものです。
しかも日本では、死後の世界はごく近いところにあると感じられてきました。祖先の霊は草葉の陰で子孫を見守っているし、お盆やお彼岸には祖先の霊を迎えて供養するのが日本の伝統です。そして、祖先の霊が安らかであれば、災いは除かれ幸せがもたらされるとも伝えられてきました。 仮にそのようなことは期待しなくても、亡き人の霊が安らかであれと祈るのもまた、人の心という ものです。今の自分があるのは祖先の命を受け継いだおかげであり、自分もまた、いつかは祖先から連なる御霊の列に加わるのですから。
とはいえ、死後の世界は、人の手の及ばないところにあります。亡くなった人が、もし苦しみにあっているとしても、この世の人にはどうしようもありません。
しかし、御仏の力により、はるかな異界に通じるという言葉があります。それがお経の声です。
仏像を造り、経を読誦して仏を供養せよ。そうすれば、地獄の世界でも餓鬼の世界でも、すべては平安に導かれる。法華経などにも、お経の力についてこのように説かれています。
そして地蔵菩薩本願経という経典には、地蔵菩薩は修行が完成して仏になることができるのに、それを延期して人々が迷い苦しむ世界にとどまり、災いと苦しみを除くことを願いとしたと説かれています。


六道守護の地蔵菩薩
地蔵菩薩の救いは、この世だけではありません。死後に転生するという六道のどこにでも、地蔵菩薩は旅の僧の姿をとって現れ、苦しむ魂を守護します。
六道とは、地獄(生前の罪によって罰を受ける世界)、餓鬼(飢えと欲望の世界)、畜生(愚かな動物の世界、修羅(阿修羅/憎しみと争いの世界)、人間(人の世界)、天(なお悟りに達しない神々の世界) の六つです。
この六道の世界にあって迷える魂を救う地蔵菩薩は、それぞれの次の名で呼ばれます。ただし、その名称や持物は、伝えによってさまざまです。成願寺の六地蔵の名称の下に一般的な別称を付記しました。
大定智悲地蔵(金剛願地蔵)……地獄道
大徳清浄地蔵(金剛宝地蔵)……餓鬼道
大光明地蔵 (金剛悲地蔵)……畜生道
清浄無垢地蔵(金剛幢地蔵)……修羅道
大清浄地蔵 (放光地蔵)………人間道
大堅固地蔵 (預天賀地蔵)……天道
なお、六地蔵の信仰は日本の平安時代以降に盛んになりました。仏教のふるさとインドでは、あまり重視されず、中国で発展した信仰を受けて、特に日本で広まった信仰です。
それというのも、日本では亡き人の魂は山や野原にいるという考えかたが古代からあり、大地の守護尊である地蔵菩薩への信仰が深く人々の心に浸透したのでした。

 
     
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